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賢者の樹 〜 花王冠の夢 〜



第1章  聖地


 伸ばした枝には、輝く青葉――隆起した幹は太く、地を這う根は力強い。
 美しい緑の世界を支えるかのように、大樹は在る。
 その根元には、守られるようにしてひとり、少女が佇んでいた。
 木漏れ日が少女のやさしい横顔を照らす。
 透けるように淡い金髪が肩から滑り落ちた。
 風に背中をおされるようにして、少女はゆっくりと歩き始める。
 少女は歌を口ずさんでいるようだった。
 澄んだ小さな声が、風に乗って緑を満たしていく。
 そこに存在するすべてが、妙なる声に耳を傾けていた。
 ――目を惹かれるのは。清楚な美貌よりも、その儚さなのかもしれない。
 憂愁を帯びた翠の眼差しも華奢な肢体も、緑が創りだした幻のようだ。そのまま光に溶けてしまいそうな。
 ふわり、と、慈愛の気配が少女を包みこんだ。
 夢のような少女は大樹を振り返り、そっと微笑む。




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